ユナイテッド航空232便不時着事故


1989年7月19日。
ユナイテッド航空232便は乗員乗客296人を乗せてステープルトン国際空港からシカゴ・オヘア国際空港に向けて巡航中でした。

 

この飛行機はエンジンが左翼、右翼、そして、垂直尾翼についているいわゆる3発機でした。

 

ある時、機体後方で爆発音がしました。垂直尾翼についている第2エンジンが壊れたのです。

実は飛行機は、たとえ1発のエンジンが停止したとしても最寄りの空港に余裕を持って着陸できるようになっています。

ですので、この第2エンジンが停止したぐらいでは支障はないはずでした。

しかし、重大な問題が発生したのです。第2エンジンが爆発した際に飛び散った破片によって油圧系統が全て停止してしまったのです。

油圧系統とは、機体の制御を司る系統です。例えば、機体の揚力を大きくするためにはフラップを動かさなくてはなりませんし、機体を旋回させるためにはエルロンやラダーを動かさなくてはなりません。これらは全て人の力では動かせないので油圧で動かしているのです。

この油圧系統が全て停止したということは、機体が制御不能になったことを意味します。

まさに、危機的状況です。

「じゃあ、そのまま墜落してしまうじゃん!」と思うかもしれません。が、一応、別の手はあります。「推力操作」です。

今残っている右翼と左翼のエンジン2つの推力を操作することによって、(非常に難しいですが)上昇下降旋回することは不可能ではないのです。

推力を両方増やせば速度が上がって(揚力が大きくなって)上昇、推力を両方減らせば速度が下がって下降、左の推力を増やせば右旋回、右の推力を増やせば左旋回といった具合です。

しかし、このような推力操作のみによる操縦は恐らくパイロットの操縦訓練の時もやらないと思いますし、機体を安定させるのでさえ大変なのに着陸などできるはずがありません。普通なら全員死亡で終わってしまうところです。

危機的状況であることに変わりはない中、一人の男がコックピットにやってきます。

実はこの便には偶然現役パイロットが非番で搭乗していたのです。彼は1985年の日本航空123便墜落事故のことを個人的に研究していました。

123便の事故では、油圧系統停止によって推力操作だけでなんとか機体を安定させようと試みましたが、最後には墜落してしまいました。この「推力操作による操縦」について彼は研究していたのです。

彼は機長と副操縦士の間に座り、(推力の)スロットルレバーを両手に持ち微妙な推力操作を行いました。さすがに研究をしているだけあり、機体はある程度安定しました。(乗客はトイレに歩いていくこともできたようです)

あとは着陸です。そもそも推力操作のみで滑走路上に接地できるだけでもの凄いことなのですが、それを機体を安定させた状態でできるだけ速度を落として行うことは普通人間には不可能です。

しかし、彼は、高度・機体の安定を調整して、着陸までこぎつけました。

この状況では揚力を確保するために速度を通常よりも速くして着陸しないといけないので、かなりのラフランディングになりました。結果機体は滑走路上で止まったものの、後部から炎上し、半数近い乗客が亡くなりました。しかし、無傷の人も一定数おり半数以上が助かったというのは油圧系統全停止という状況を考えると奇跡的なことです。

 

半数以上の人の命を救ったということで、この事故での乗員の対応は全米で高く評価されました。

しかし、一方で日本ではこの事故を「エンジン爆発 着陸失敗 ◯◯名死亡」といったように否定的報道がほとんどでした。日本人はネガティブに捉えたがる傾向があるのかもしれませんし、その傾向が良いとか悪いとかはここでは言いませんが、少なくともこの事故の正しい評価は「全員死亡でもおかしくなかった状況下で、乗員の適切な判断により半数以上の生存者を出した」だというのは間違いなさそうです。


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