次世代旅客機 Blended Wing Body ~大空の覇者へ~


この記事は東京大学航空宇宙工学科・航空宇宙工学専攻アドベントカレンダー 16日目の記事です。

 

オープニング

みなさんは、飛行機と聞いてどういう形のものを思い浮かべますか?

真っ先に思い浮かぶのはこういう形のものだと思います。

Fig.1  Tube & Wing 型機

確かに我々が乗る飛行機は、大きさの違いやジェット機・プロペラ機の違いはあれど、基本的にこういう形(Tube & Wing型機、以下T&W)をしています。

しかし、飛行機はこの形でなければならないという決まりはありません。

20世紀後半の技術で性能の良い旅客機を作ろうと思ったら、このT&Wに辿り着いただけです。

より性能の良い機体を開発しようと思っても、技術的な限界があって、この筒と翼をくっつけた機体を作り続ける他なかったのです。

しかし、この21世紀、製造技術、制御技術等の進歩によって、旅客機の形は大きく変化するかもしれません。

今回は、次世代旅客機として研究が進められているBlended Wing Body型機に密着しました。

 

次世代旅客機

Blended Wing Body

大空の覇者へ

 

 

 

大空の覇者

この地球上の空には、3億年前から絶えず支配者がいました。

最初に空の支配者となったのは、昆虫です。

(スキップしたい方はこちら)

3億年前の石炭紀、カゲロウの祖先が初めて飛翔に成功したのを皮切りに、この石炭紀では翼幅が70cmあるトンボ(メガネウラ)も出現し、昆虫達は「空」とは行かずとも、この空中を約1億年間に渡って支配しました。(ちなみに、石炭紀は酸素濃度35%の酸素地獄でセピア色の大気だったようです。『風の谷のナウシカ』の「腐海」のようなもんです。)

 Fig.2 現存するトンボ

次なる空の支配者は、主にジュラ紀と白亜紀に君臨した翼竜です。脊椎動物として初めて空の覇者となり、昆虫とは違って森のはるか上空も飛ぶことができました。翼竜は最も長く空の覇者に君臨し続け、その期間は1億5千万年にもなります。

Fig.3 翼竜

新生代に入り、が空を支配するようになりました。飛ぶことに特化した鳥類は様々な環境下で進化し、地球上の空を支配しました。

Fig.4 フクロウ (未だに静粛性でフクロウに勝る有人飛行機はない)

しかし、鳥類の空の覇権は6500万年で突然終わりを迎えます。

地上を這いつくばり、鳥を見て育ち、その大空を羽ばたく姿に憧れたホモ・サピエンスが西暦1903年に動力飛行を成功させてしまったのです。

ライトフライヤー号が初めて動力飛行に成功した日の飛距離はわずか259.6mでしたが、その後わずか100年間で、飛行機は鳥類を遥かに凌ぐ空の覇者へと成長しました。

X-15A-2はハヤブサの20倍以上の速度を出し、さらにアネハヅルの10倍以上の高度まで到達できます。

現在世界最長路線を飛ぶA350-ULRは、オオソリハシシギの1.5倍以上の距離をノンストップで飛びます。(オオソリハシシギすげぇ…)

A380の翼幅は、ワタリアホウドリの20倍以上です。

 

 

このように115年前の明日(12月17日)に登場した飛行機は、非生物としては初めて空の覇者となりました。

 

 

 

その飛行機の中でも、T&Wの形をとる旅客機は数や大きさ、認知度の面で見ても最も繁栄している機体群だと思われます。

この栄華を誇っているT&W群ですが、実は理論的に見ると、空気力学的に最適な機体形状だとは到底言えません。

胴体と主翼と尾翼がそれぞれの方向に伸びているため無駄に表面積が大きく、さらに主翼だけが揚力を発生しているため、抵抗が大きくなってしまいます。(かなり雑な説明)

この弱点を克服するために考え出された新しい機体が、Blended Wing Body型機(以下、BWB)です。

Fig.5  Blended Wing Body型機(文献[1]より)

BWBは、胴体が横に平べったく、主翼と滑らかに繋がった形状をしています。主翼の中に胴体を埋め込んでいるといった方が適切かもしれません。

BWBには、T&Wに対して以下のようなアドバンテージがあります。

BWBのアドバンテージ

①摩擦抵抗の低減

体積の割に表面積を小さく抑えられること、機体全体で揚力を発生することによって空力性能を大きく向上させられます。

②構造重量の低減

T&Wでは、主翼には大きな揚力がかかり、胴体部には重力のみがかかるので、その結合部や主翼への負荷が大きく頑丈に作らざるを得ません。

一方、BWBでは、機体全体が翼なので、揚力と重力が相殺してくれて、翼や胴体への負荷は小さくて済み、結果的に構造重量を軽くすることができます。

Fig.6  T&WとBWBにおける揚力と重力のかかり方の違い(文献[2]より)

③低騒音の可能性

T&Wでは、エンジンを主翼の下に配置しても、胴体後方に配置しても、地上へは騒音が直に響いてきます。

一方、BWBでは、胴体後方上部にエンジンを配置することも可能で、この場合、胴体が騒音を遮ってくれて、地上の騒音レベルは大幅に低減されることでしょう。

 

 

このようにBWB群はT&W群を凌駕するいくつものアドバンテージを持っています。しかし、現状では、BWB群がT&W群に取って代わることはできません。BWBには、克服しなければならない以下のような課題が残されているからです。

克服すべき課題

①安定性

T&Wでは重心から大きく離れた位置に垂直尾翼と水平尾翼を配置することができるため、縦の静安定や横の静安定を取りやすいのですが、BWBではそのような位置に尾翼を配置することが困難であり、安定性の確保が課題になっています。

②乗り心地

T&Wでは、機体の上昇時や旋回時に胴体部分が傾くことはありますが、ジェットコースターのようにGが大きく変わることはありません。

しかし、BWBにおいて胴体の端に座っている人は、機体旋回時に上下方向への大きな加速度を体感することになり、大きなGを感じる可能性があります。

③空港への導入

現在の空港はT&W用に作られたものであり、BWB用には作られていません。BWB用のボーディングブリッジはないですし、貨物積み下ろしやエンジンのメンテナンスも既存の設備ではスムーズにいかないでしょう。BWBの導入によって空港設備も刷新しなければならないのです。

 

 

エンディング

以上のような障壁は今後、解決していかなければなりません。

その先には、BWBが空の覇権を握る時代が待っているかもしれません。

BWBが大空の覇者となる時代はやってくるのか。

今後もこの動向から目が離せません。

 

 

 

 

参考文献

[1] AVIATION WEEK NETWORK, ”Landmark for NASA’s Mini-BWB, the X-48C | Things With Wings,” http://aviationweek.com/blog/landmark-nasas-mini-bwb-x-48c .

[2]Liebeck, R. H., “Design of the Blended Wing Body Subsonic Transport,” Journal of Aircraft, Vol.41, No.1, pp. 10-25, January-February 2004.


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