日本航空安全啓発センター見学 ~二度と悲惨な事故を起こさないために~


先日、JALの安全啓発センターを見学する機会がありました。
日本航空123便墜落事故については、テレビ・本・ネット等で理解しているつもりではありましたが、航空機を専門とする学生として、一度は訪れるべき場所だという認識のもと、訪れました。

日本航空安全啓発センターとは

日本航空安全啓発センターは、東京モノレール新整備場駅から徒歩数分の日本航空の建物内にある展示施設で、主に日本航空123便墜落事故に関する様々な物が展示されています。JALのHPには「事故の教訓を風化させてはならないという思いと、安全運航の重要性を再確認する場として、私たちは安全啓発センターを2006年4月24日に開設しました。」と書かれています。 安全啓発センターに来るのは、半数は社内の人で、半数は外部の人だそうです。 外部の人の多くは、鉄道会社やバス会社など旅客輸送に関わる人でここに来て安全に対する認識を強めているとのことです。

日本航空123便墜落事故について

日本航空123便墜落事故は1985年8月12日に起きました。 乗客509名、乗員15名の計524名を乗せたBoeing 747型機は、羽田から伊丹へと向かって離陸します。 相模湾上空でドーンという音がしてその後操縦不能に陥り、32分後、御巣鷹の尾根に墜落しました。死者520名を出す、単独機としては史上最悪の事故となりました。

この事故原因については、事故調査委員会が調査に当たりました。 疑問が残る箇所はあるものの、調査報告書では以下のような事故原因であるとしています。

まず、7年前の1978年に、当機体は着陸時に尻もち事故を起こしており、その際、後部圧力隔壁が損傷してしまいました。その圧力隔壁の修理は機体製造メーカーであるBoeingが担当しました。しかし、Boeing当局が指示した修理方法と実際にBoeingの修理担当者が修理した方法が異なり、強度が約70%に落ちてしまっていました。この圧力隔壁に7年間金属疲労が蓄積して亀裂が発生し、1985年8月12日に上空で差圧がかかった際に限界に達し、破断しました。破断した圧力隔壁からは一気に空気が漏れ出し、その影響で垂直尾翼の大部分が吹き飛んでしまい、それと同時に垂直尾翼に設置されている油圧系統からOilが漏れ、全ての油圧系統が作動しなくなってしまいました。これにより、機体の制御ができない状態になったことにより墜落事故に至りました。

これだけを見ると、Boeingの修理担当者が修理を誤ってしまったことが原因のように思えますが、これはいくつもの要因が重なって起こったことだと考えられています。

  • 日本航空がBoeingに修理を急かした可能性がある
  • Boeing当局からの修理指示が当時はFAXであり、指示内容の文字や図が不鮮明だった可能性がある
  • 修理担当者が圧力隔壁の構造と強度について理解していなかった可能性がある
  • 日本航空の整備士が圧力隔壁の修理不備に気付けなかった
  • 圧力隔壁破断を起因として全ての油圧系統が作動しなくなってしまう冗長性の無い設計だった

この調査結果を受け、様々な改善がなされ、修理や整備のマニュアルも改善され、機体の冗長性も改善されました。

旅客輸送における事故

 他の旅客輸送業界に目を向けても、死亡事故が起きてしまっているのは確かです。 2005年の福知山線脱線事故(死者107名)、2016年軽井沢スキーバス転落事故(死者15名)など、悲惨な事故が起きてしまっています。

死亡事故は、亡くなられた方・遺族の方・社会全体を不幸にさせてしまいます。

事故ゼロに向けたシステム

事故をゼロにするというのは非常に難しいことではあります。 しかし、事故、特に死亡事故は必ずゼロにしなければならないものです。 事故ゼロを達成するためには、製造する者・整備する者・運行管理する者・運転(操縦)する者全員がミスをせず、また、たとえ誰かがミスをしたとしても致命的な事故にならないようなシステムを作り上げる必要があります。

事故ゼロに向けた意識

ここまで述べてきたのは、システム上の安全対策です。安全を確保するためにもう一つ大事なのは、当事者意識を持って仕事をすることです。

日本航空には「2.5人称の視点」という概念があります。1人称は乗客の視点、2人称は乗客の家族の視点、3人称は直接関わりのない他人としての視点のことです。3人称の視点で働くということは、プロフェッショナルとして、ルール通り、仕事をこなすということですが、それだけだと当事者意識が備わっていないため、十二分に確認を行うことができず、ミスを招きやすくなってしまいます。ここで大切なのが3人称の視点だけではなく、2人称に歩み寄る「2.5人称の視点」です。プロフェッショナルとしての意識を持ちつつ、「自分がお客様の家族だとしたらどう行動するか?」ということを常に考えるということだと思います。

また、安全の意識を向上させるために、日本航空では「三現主義」というものを大切にしていると聞きました。これは「現地」「現物」「現人」のことで、123便墜落事故に当てはめると、御巣鷹山に行き(現地)、安全啓発センターで機体の残骸を見て(現物)、生存者の話を聞く(現人)ということになります。これによって、安全の意識を強く持ち続けることができるのだと思います。

まとめ

日本航空安全啓発センターを訪れることにより、123便墜落事故についてより深く知ることができ、また、事故の悲惨さを強く心に刻みつける事ができました。

安全な旅客輸送には、

①ミスをしない・ミスをしても致命的事故にならないシステム・ルール作り

②「2.5人称の視点」「三現主義」といった安全意識の向上

が必要なのだと感じました。

私もおそらく輸送機器に関わる仕事に就くことになると思うので、①②を大切にして仕事をしていきたいと思います。

 


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